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市場改革に不断の努力を傾注するJPX、新NISA成長投資枠をきっかけに更なるETF普及促進へ挑む 市場改革に不断の努力を傾注するJPX、新NISA成長投資枠をきっかけに更なるETF普及促進へ挑む

 日本の株価がバブル崩壊以前の高値を34年ぶりに更新するほどに大きく値上がりしている。「失われた30年」という言葉があるほど、長期にわたって低迷してきた日本経済・日本株式市場の復調には、企業改革や市場改革など様々な努力が背景に考えられるが、その理由の1つとして東京証券取引所(東証)が2023年3月に行った「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」いわゆる東証要請があったといわれている。日本の株式の流通市場として国際的にも注目を集める存在である東証を擁する日本取引所グループ(JPX)は、これからの資産運用の時代とどのように向き合おうと考えているのだろうか?東証金融リテラシーサポート部の担当者に聞いた。

東証マネ部!
  • 出所:東証マネ部!

1月から新NISAがスタートしました。今年の日本の株式市場は好調で、遂に日経平均株価は34年ぶりに史上最高値を更新するほどに上昇し、好調を持続しています。今年の株価上昇に新NISAスタートの影響は感じられますか?

 私たちが市場動向を分析するのに、「投資部門別 株式売買状況」というデータを見ますが、その1月までの状況をみますと、個人投資家等の株式市場への参入拡大を見越して海外の投資家が日本株を積極的に買い越している状況が確認できます。まだ、新NISAは始まったばかりですが、今後、株式市場にも少なからぬ影響を与えるものと考えられます。

 新NISAでは、「成長投資枠」で上場株式やETF(上場投資信託)等が投資対象になります。証券取引所としては、売買プラットフォームとして円滑な取引ができるよう、取引市場を整備することが第一の務めですが、それに加えて、上場有価証券の魅力を高めることにも注力していきたいと考えています。特に、ETFは長期・積立・分散投資を実現するツールとして大きな魅力があり、昨年9月に第一号銘柄が上場した「アクティブETF」のさらなる拡充など、より魅力的な市場になるよう市場振興を進めていきたいと考えています。

JPXは、かつての東京証券取引所と大阪証券取引所を統合して生まれた日本を代表する証券取引所です。世界でも有数の取引所ですが、その株式市場が史上最高値を更新するというのは大きなできごとではないでしょうか?

 私どもは「アジアでもっとも選ばれる取引所」という目標を掲げています。昨今の「資産倍増計画」や「資産運用立国」などという国策の後押しもあって、2024年1月に上場企業の合計時価総額で中国・上海証券取引所を抜いてアジアのトップ市場に返り咲きました。過去10年で上場企業数は400~500社増えましたし、株価も上昇したことによってアジアのトップに返り咲くことができました。証券取引所としては株式の売買をスムーズに行うことができるよう流動性を提供することが重要な役割ですので、規模が大きいことは価値があります。今後も魅力的な取引所として世界の投資家にアピールできるよう、市場改革等の取り組みを強化していきたいと考えています。

近年の株高の背景には、東証が2023年3月に行ったPBR(株価純資産倍率)1倍以下の上場企業に是正を求めた要請が功を奏したということがあるのではないでしょうか?

 東証が要請したのは、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」ということです。よく誤解されているのですが、東証がPBR1倍割れを失くすように要請したということはありません。東証がプライム市場とスタンダード市場の全上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現のために、「現状分析」⇒「計画策定・開示」⇒「取り組みの実行」、そして、投資家とコミュニケーションを取ったうえで、改めて「現状分析」という一連のサイクルを回すことを継続的に実施してくださいとお願いしました。東証がお願いしたのは、資本コストや資本収益性を意識した経営を実践してくださいということです。PBRを1倍以上になど、特定の目標を求めたものではありません。

 そもそも、コーポレート・ガバナンス・コードで「企業が投資者をはじめとするステークホルダーの期待に応え、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するためには、資本コスト・資本収益性を十分に意識した経営資源の配分が重要」という観点が示されています。ところが、2023年当時は、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場企業がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況でした。これは、市場区分見直しに関するフォローアップ会議でも、上場企業の企業価値向上の実現に向けて経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要との指摘がなされていたところでもありました。

 2024年1月15日に、東証の要請に応えて「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示している企業の一覧表を掲示することを始めました。今後、毎月15日に前月末の開示状況を公表していき予定です。上場会社における資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組みをさらに促進していく観点からです。このような取り組みを継続することによって、上場会社の企業価値が向上し、より魅力的な取引所となり、多くの投資家が参加する取引所になっていく好循環を生み出すべく、様々な施策を実施しています。

東証の働きかけもあって、東証に上場する企業の価値や魅力が高まれば、それによって株高につながり、ひいては資産運用を行う投資家にも恩恵がおよぶということになります。国策として「資産運用立国」がいわれていますが、この取り組みに対して東証が行っていることは?

 国が推進する安定的な資産形成の支援ということでは、金融経済教育の普及、正しい金融知識や情報を広く届けるということが重要だと考えています。今年4月に設立され、8月から稼働することが予定されている「金融経済教育推進機構」の取り組みに、積極的に参画し、協力していきます。

 これまでも、東証が主体となって行ってきた金融経済教育に関する取り組みは、2022年10月に「JPXマネ部!ラボ」として各種の取り組みを体系的に整理して活動をバージョンアップしました。5つの取り組みにまとめ、企業の職域研修等に講師を派遣する「出張マネ部!」、資産形成に関するセミナーを開催する「セミナーマネ部!」、資産形成関連の解説記事等を発信する「東証マネ部!」、小・中・高校生向けの金融経済教室の「スクールマネ部!」、そして、大学・大学院生向けの講座「キャンパスマネ部!」があります。中でも「東証マネ部!」では年間で500本を超えるWEB記事を発信しておりますが、今後も個人投資家の皆様に有為な情報を提供し、投資行動につなげられるような活動に力を入れていきます。

 また、東証が取り組んでいる市場改革は、10年以上も前から続けている息の長い取り組みです。上述の東証からの要請にしましても、要請だけで終わってはいけないので、その後のフォローとして改善状況等を公表する取り組みを始めました。これまでにも、企業の健全な経営を維持するために、組織として不正や不祥事を未然に防ぎ、公正な判断や運営が行えるように監視・統制する仕組みであるコーポレート・ガバナンスについてのガイドラインであるコーポレート・ガバナンス・コードを策定(2015年)し、2018年、2021年、2024年と3年ごとに改定を続けています。企業の価値を維持・向上していくためには、不断の努力が必要です。

 これは、弊社が行っている金融経済教育についても同じことが言えると思っています。情報を発信し、その情報に対する評価をうかがい、さらに必要とされる情報やコンテンツを工夫して届けることというサイクルを回し続けることが大事だと思っています。そのような取り組みが国全体の取り組みとして行われるようになりました。これまでの経験を活かして「金融経済教育推進機構」に積極的に協力し、国民の金融リテラシーの向上に貢献していきたいと考えています。

新NISAの普及・発展のために、特に、力を入れて取り組むことは?

 新NISAの成長投資枠では、上場企業の株式への投資やETFも投資対象になっています。東証が取り組んでいる市場改革によって上場企業が資本コストや株価を意識した経営に力を入れていただく流れがより太い流れになっていけば、それが、新NISAで株式に投資される投資家の皆様にとってもプラスになると思います。

 また、資産形成には「長期・分散・積立」による投資が重要といわれますが、ETF(上場投資信託)はこれらの実現に有効なツールと言えます。日本株、外国株だけでなく、国内外の債券、不動産(REIT)、商品、バランス型など、様々なETFが321本上場しており、(2024年3月25日現在)2021年末時点では250本だったため、2年少々で70本以上が増えた計算になります。また、従来はETFというと、「TOPIX」や「日経平均株価」、「S&P500」といったインデックス(指数)に連動するものばかりでしたが、2023年9月にアクティブ運用のETFの上場もスタートしました。運用会社の運用力によってインデックスを上回る投資成果をめざすETFです。現在10本が上場していますが、今後銘柄数も増えて魅力的な市場になると期待しています。

 ETFについては、ご存じない方もいらっしゃるとは思いますが、一般の公募投資信託を上場させたものに近いと考えていただいて良いと思います。上場しているために、購入や売却時の単価がわかり、単価を指定して購入・売却する、すなわち株式と同じように「指値」で売買ができるのです。一般の公募投資信託が注文時に購入・売却の単価がわからないこととは大きな違いです。さらに、最低投資金額は1,000円~3,000円程度で投資できるETFも少なくないので、投資の入り口としても手軽に始めていただけると思います。様々なアセットへの投資がかなうため、ETFだけでも少額からの分散投資が実現可能です。

 一方で、一般の投資信託のように、金額を指定して「1万円ずつ積み立てる」などという取引には不向きです。売買単位が口数となり、その1口当たりの価格が刻一刻と変動するため、「1万円分を買う」というようなことが簡単にはできないのです。また、公募投資信託の場合は、投資した株式の配当や債券の利子などを再投資して分配金は支払わないという仕組みもできますが、ETFの場合は配当等をその都度払い出すことになっているため、再投資するためには都度ご自身での買い付けが必要になります。それぞれの商品の特性を理解して使い分けていただきたいと思います。

 ETFは米国では非常に大きな市場に成長しています。魅力的な商品を提供し、市場の情報発信を積極的に行って、国内のETF市場の育成にも力を入れていきたいと思っています。

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