新NISA「コラム」
資産形成のヒント(1)、中長期的な成長資産を組み入れる
2024年1月にスタートする新NISA(少額投資非課税制度)を前に、資産形成プランを考え始めた人は少なくないだろう。一般に多い給与所得者の資産形成の第一歩は、毎月の給与から生活費を除いて得られる「つみたて可能資産額」の確保だ。資産形成の完遂には、「継続」が必須条件になるため、無理なく継続できる資金を把握しておくことが大事になる。その準備が整った上で、次に重要なのは「何を買うか?」ということになる。「何を買う」ということは、人ぞれぞれに好きなものを買えばよいということになるが、一度始めてしまうと軌道修正は難しいため、「投資の基本」に立ち返って、失敗しないためのポイントを抑えておきたい。
預貯金では「インフレ(物価上昇)」に負ける可能性
資産形成の手段として「好きなものを買えばよい」のだが、「NISA」という収益非課税の枠組みを使うのであれば、購入可能な商品は、「投資信託(投信)」か「上場株式」に限定される。しかも、投資信託であれば、「つみたて投資枠」ではつみたてNISAの対象商品に限定される。また、「成長投資枠」についても金融庁が規定した条件(信託期間20年以上、毎月決算型は不可、ヘッジ目的以外のデリバティブの使用は不可)を満たした商品のみが投資可能になる。株式は、整理・管理銘柄を除く銘柄群だ。もっとも、銀行や証券会社を通じてNISA口座を申し込むことになるため、それぞれの金融機関が「新NISA対象商品」として品揃えした商品から選ぶことになる。金融機関によって取り扱い商品は異なるため、事前にNISAを申し込む金融機関の品揃えを調べておくことがひとつのポイントになる。
そもそも「資産形成」において、「投資信託」ほど使いやすい金融商品はない。たとえば、「金(ゴールド)」や「プラチナ」、「原油」にも投資することができるし、「都心のオフィスビル」や「住宅」、「商業施設」といった不動産に直接投資する投資信託(不動産投資信託:REIT)もある。もちろん、株式や債券は世界の株式や債券が投資対象になっている。しかも、投資信託は1口100円や1,000円という小さな単位で投資が可能だ。日本では、歴史的に資産家が保有するのは「株式と国債と不動産」などといわれてきたが、そのような資産の分散保有を小さな資金から可能にしてくれる。たとえば、個別の上場株式を銀行では購入ができないが、国内の主要株式全体に投資する「TOPIX(東証株価指数)」や「日経平均株価」に投資することはできる。株式に投資することで得られる「値上がり益」や「配当金」を得るためには、投資信託が代替手段になる。
一方、投資信託は「預貯金」の代わりにはならない。預貯金であれば、元本1,000万円までは預金保険で保護され、日本国が破たんするようなことがなければ、1,000万円は1,000万円として守られている。しかし、投資信託にはこのような価値を保護するような仕組みはない。投資信託は常に「時価」だ。投資信託の「時価」は、常に変動(価格は平日に毎日1回更新される)している。そして、今、「預貯金」のような低収益資産(預貯金金利が年0%台)を保有していることは、資産形成にとってはデメリットといえる。日本のゼロ金利政策は1999年から20年以上にわたって続いているが、この間にデフレ(物価下落)の間はモノの価格が下落してゼロ金利でも問題なかったが、近年のようにインフレ(物価上昇)になると、実質的に「預貯金」の価値は目減りすることになる。ゼロ金利が継続し、年2%のインフレが10年も続けば、100万円の価値が10年後には81.7万円程度と20%近く価値が目減りしてしまうことになる。超低金利時代が簡単に解消しそうにない今、資産形成に「預貯金」はふさわしくない資産といえる。
米国株式は20年後も世界のトップ市場か?
図表1:主要国の代表的な株価指数の過去3年間のパフォーマンス推移
資産形成として新NISAを使って投資する商品は「成長」が期待できる資産にしたい。ゼロ%で横ばいの「預貯金」がインフレで目減りする資産になりかねないのであるから、インフレ率を日銀が目標としている年2%と想定し、それ以上の収益率が見込まれる資産に投資すべきだ。たとえば、現在(7月21日)の東証プライム市場の単純平均利回りは2.25%、加重平均利回りは2.27%だ。これは、「TOPIX」の配当利回りに相当するため、「TOPIX連動型の投資信託」に投資すると、配当金の利回りだけで年2%超の収益が確保できることになる。同様に「日経平均株価」の平均配当利回りは2.07%になっている。利回りだけに着目すれば、米国10年国債利回りは年3.8%程度の水準になる。株式には株価の下落するリスクがあり、外国債券には為替の通貨安リスクがある。単純に利回りだけで儲かる資産とは断定できないが、魅力的な利回りがある資産が探さなくとも普通に存在しているのが現在だ。
また、価格変動が収益にプラスに働くことも少なくない。たとえば、米国の代表的な株価指数である「S&P500」は、2020年3月にコロナショックで大きく下落したところを起点として2021年12月末まで1年9カ月にわたって大きな上昇となった。2020年3月末の「S&P500」は2,584ポイントだったが、2021年12月末には4,766ポイントになった。84%以上も値上がりしたことになる。100万円が1年9カ月で184万円だ。もっとも、2022年は20%程度の下落になった。しかし、2023年は再び上昇相場となり、7月21日までに18%以上の値上がりとなっている。現在、つみたてNISAで投信のつみたて投資を実行している投資家の多くは、「S&P500」を投資対象に選んでいる。そして、つみたて投資を実行してきた投資家は、これまで概ねプラスの収益を確保できてきた(2023年6月末現在で、過去3年間のつみたて投資では元本36万円に対し評価額49.92万円、過去1年では元本12万円に対し、評価額は14.17万円)。
株価の値上がりは、その当時のインフレ率を大きく超える場合もある。直近の数年間の経験では、特に、米国株式の値上がり率の大きさが注目されてきた。しかし、もう少し視野を広くしてみると、米国株式は過去3年間で最高の値上がり率を獲得した株式市場ではなかった。たとえば、2023年6月末現在で、過去3年(年率)リターンは米国「S&P500(配当込み、円ベース)」は26.66%だったが、「MSCIインド(配当込み、円ベース)」は31.90%と米国を上回っている。もっとも、過去1年になると「S&P500」が24.25%で「MSCIインド」の20.14%を上回っている。米国株式市場が非常に魅力的な市場であるということは過去10年間の収益率をみるとよくわかる。その米国を上回るパフォーマンスを示す国にインドなどの新興国にはあることに注目したい。たとえば、「MSCIブラジル(配当込み、円ベース)」の過去1年間のリターンは36.25%で米「S&P500」を上回っている。
ただ、ここ数年の「新興国株式」のパフォーマンスの印象は良くない。それは、新興国株式を代表する「中国」が低迷しているためだ。「MSCI中国(配当込み、円ベース)」の過去1年間のリターンはマイナス12.08%、過去3年(年率)でもマイナス0.66%になっている。新興国株式を代表する「MSCIエマージング・マーケッツ・インデックス」において、中国の配分比率(2023年6月末)は筆頭で29.55%、次いで、台湾が15.6%、そして、インドが14.63%、ブラジルは5番目で5.54%だ。指数の中核を占めるのが中国であるため、指数のパフォーマンスも冴えない。2021年に先進国株式「MSCIワールド」が22.35%上昇した時、新興国株指数はマイナス2.22%、2022年に先進国株指数がマイナス17.73%になると、新興国株指数はマイナス19.74%と輪をかけて悪い成績になった。その多くは、中国株式市場の不振の影響といえる。
ただ、ここ数年は足を引っ張っている中国株だが、リーマンショック後は世界のリーダーだった。上海総合指数は2008年10月末の1,728.79ポイントが2015年5月末には4,611.74ポイントと2.67倍に上昇した。その間、米「S&P500」の上昇率は2.18倍だった。
このように、投資のタイミングによって、主要国における株価のパフォーマンスは異なる。特定の国に集中投資していると、その他の国の成長を見過ごしてしまうリスクがあるといえよう。資産形成を3年や5年という期間ではなく、20年、30年という長期で考えている場合、投資先の選定は重要になる。特定の国に偏ることなく全世界株式「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」のような広く分散された投資対象を選びたい。ただ、既製品の「MSCI ACWI」だと、米国への投資比率が62%を超える。米国への集中の度合いが高過ぎるのではないだろうか。ここに成長余力の大きな「インド」を個別に付加するなど、全体のバランスを考えた投資ポートフォリオを考えていきたい。(グラフは、過去3年間の主要国の代表的な株価指数の推移)
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