NISA「ニュース」
新NISAの1年目の決算、「オルカン」や「S&P500」の積立投資の結果は?
投資信託協会が2月14日に発表した「投資信託概況」によると、2025年1月の公募株式投信(ETF<上場投資信託>除く)の純資金流入額は2兆1212億円で、20カ月連続で流入超となり、その額は2007年3月の1兆8886億円を18年ぶりに更新し、過去最高となった。この資金流入額の拡大は2024年1月にスタートした新NISA(少額投資非課税制度)によって投資をスタートした多くの投資家が、2024年の運用成果に納得し、一段と投資姿勢を強めた影響が少なくないと考えられる。投資信託協会の説明によると、2025年1月の資金流入額のうちNISA対象商品の資金流入額は約1兆9300億円と資金流入額の大半を占めている。
金融庁が2月13日に発表した2024年12月末時点のNISA口座数は約2560万口座(速報値)で2023年12月末(一般NISAとつみたてNISAの合算値)と比較して約436万口座が新規に開設されたことになる。これは、2023年の1年間のNISA口座(一般NISA+つみたてNISA)増加数の約90万口座を大幅に上回った。年間の非課税投資枠が「つみたて投資枠」で120万円、「成長投資枠」では240万円となり、1人当たり生涯で1800万円の非課税枠が付与され、かつ、非課税期間も無制限となったことの効果は、この新規口座開設数の数に表れている。
また、NISA口座を通じた年間の買付額は、「つみたて投資枠」が約4兆9857億円、「成長投資枠」が約12兆4628億円、合計で約17兆4485億円になった。これは、2023年の1年間の「つみたてNISA」の買付額約1兆6972億円と「一般NISA」の買付額約3兆5410億円の合計約5兆2382億円の3倍超の金額になる。
なお、2024年の1年間の公募株式投信(除くETF)の資金流入額は15.3兆円だったが、そのうちNISA対象ファンド(「つみたて投資枠」と「成長投資枠」のファンド)の資金流入額は13.2兆円だった。さらに、インデックスファンドが中心の「つみたて投資枠」の対象ファンドに絞ると買付額は約8.6兆円だった。また、1年間の設定額は約44兆円だったが、うちNISA対象ファンドの設定額は28.9兆円だった。「つみたて投資枠」対象ファンドだけだと設定額は約13.4兆円だった。NISA対象ファンドが全てNISA口座経由で購入されたとは限らないため、対象ファンドの資金流入額や設定額を全てNISA口座と考えることはできないが、投信市場にとって新NISAが非常に大きなインパクトがあったことは確かだ。NISA対象商品以外で大きな資金流入があったのは、毎月決算型ファンドだ。また、ブル・ベア型などレバレッジ効果のあるファンドも活発に活用されたファンド群の1つだった。
このようにNISA対象商品への資金流入が増えた結果、公募株式投信(除くETF)に占めるインデックスファンドの割合が、2023年の29.2%から2024年には35.6%に拡大。販売業態別の純資産残高のシェアで証券会社が61,4%から64.6%に高まった。また、公募株式投信(追加型)の運用管理費用(信託報酬)(税抜き)は2023年12月末の0.97%から2024年12月末は0.94%に低下。インデックスファンドは0.37%から0.35%に低下している。
さて、新NISAのスタートと同時に資産形成を積立投資で開始した場合、その収益は、どの程度だったのだろうか? まず、新NISAで年間2兆円程度の資金流入があった「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(通称:オルカン)を使って毎月2万円の積立投資を実施した場合は、2024年1月末にスタートして2025年1月末まで積立金額は26万円で、積立投資の評価額は1月末時点で28万6421円だった。1年間の収益率が10.16%だ。また、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」を使って同じように毎月2万円の積立投資を行った場合、1月末時点の積立投資の評価額は29万3261円で、こちらは12.79%の収益率になった。「S&P500」の方が収益率が高いため、2024年の後半には「オルカン」よりも「S&P500」の人気が高まった。
積立投資をして1年間で2ケタの収益が稼げたという実績は、投資を始めたばかりの投資家にとっては心強い結果だったのではないだろうか。いうまでもなく預貯金に預けていれば、ゼロ%台の金利しかつかず、国内の食料品やガソリンその他の生活必需品の値上がりに対して「お金」の価値が目減りしていた。買い物の量を減らすことくらいしか生活防衛の策がなかったところ、投資をすることによって資産価値の目減りを食い止めることができることが分かった。今後は、この投資が継続できるようなアドバイスが投資を始めた人たちに送られ続けることが重要だ。資産価値が元本に対してプラスの時には投資は継続されやすいが、大きな価格変動があったり、元本に対してマイナスの資産価値になった時などは、投資の中断や撤退などが起きやすい。
2025年になって市場の環境は大きく変わった。1つには米国にトランプ政権が誕生したことで予測不能な貿易政策や経済運営を行うリスクがある。すでに、カナダやメキシコといった隣国や中国は、高い関税を課されることで、その対応に迫られている。特に新興国では、米国が他の国に仕掛ける貿易戦争の余波を受けやすい。そして、不透明な政策を繰り出すトランプ政権は米国経済の先行きをも不透明にし始めている。また、為替相場も日銀が利上げを続けていることによって、これまでのように継続的な円安を期待できる環境にない。たとえば、米国の景気が腰折れし想定以上の利下げに踏み切るようなことがあれば、これまで続いてきた円安の基調が逆転して円高に動くきっかけになるかもしれない。その際には米国株式「S&P500」などを中心に、円高が運用成果にマイナスに作用することになる。
もちろん、長期に積立投資を続けていれば、1年、2年の低迷は、かえって後のために「安値で購入できた」ということにもなるのだが、それは積立投資を継続することが条件になる。価格変動のある株式投信への投資は、常にプラスにあるのではなく、時にはマイナスを耐えることも成功のためには必要になる。そのようなアドバイスが投資家に届くことが重要だ。そこには、証券会社や銀行等にいる訓練されたアドバイザーの力が肝要なのだが、多くの個人投資家がネット証券にNISA口座を開いている今、アドバイザーの声は投資家に届きにくい。そうなると、株価の下落時に強い債券ファンド等を併せ持つなど、商品面でバランスや分散が効いた商品が普及することが期待される。「S&P500」の成功に気をよくしている投資家に、投資商品の再考を促すことは難しいのだが、大きく膨らみ始めた投資家人口を維持・拡大するために、投信業界で何ができるのかを考えなければならない。
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