新NISA「コラム」

資産形成のヒント(2)、最高のリターンを狙わない理由

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 2024年1月にスタートする新NISA(少額投資非課税制度)を前に、資産形成プランを考え始めた人は少なくないだろう。既に投資を始めている方も含めて、この機会に「投資の基本」に立ち返って、失敗しないためのポイントを押さえておきたい。第1回目に投資先には「成長資産」を組み入れたいということを強調したが、今回は「ベストなリターンを求めない」というポイントについて解説したい。「リスク資産に投資するなら、元本の保証がないため、当然、高いリターンを求める」という気持ちはわかるが、高いリターンに固執すると思わぬ痛手を被ることがある。最高のリターンを求めるよりも「そこそこに高いリターン」で納得した方が、長期の資産形成で成功する確率が高まるといえる。

 「最高のリターン」を求めてはいけない理由は単純だ。「今後のリターンを予測することができない」からだ。そもそも予測できないことに「最高」を求めることに無理がある。また、誰でも自己ベストの更新を目指すときには、無理をして危険な賭けをすることがある。危険を顧みずに挑戦し、うまくいけば「結果オーライ」で事なきを得るが、その挑戦に失敗した場合は、二度と立ち上がれないほどのショックを受けてしまうものだろう。スポーツ選手であれば、自己ベスト更新に挑んだがために、選手生命を失ってしまったということもある。まとまった資産を形成するには、一般的に長い時間が必要になる。投資を途中で止めることなく、長期にわたって継続することが大事だ。最高を狙った無理な投資行動によって、立ち直れないほどのショック(大きな価格下落)を経験しない方が良い。

 代表的な7つのリスク資産の年間騰落率(円換算なし)について、過去10年間の推移をみると、1年ごとの最高リターンの獲得資産は毎年のように異なっている。たとえば、2013年のトップパフォーマーは「国内株式」(TOPIX)の51.5%だったが、「国内株式」は2016年(マイナス1.9%)、2018年(マイナス17.8%)にワーストパフォーマーになる。ベストだと思って購入した商品のパフォーマンスが3年後にはワーストパフォーマーになってしまった。一方、2013年には「国内株式」や「国内REIT」(東証REIT指数)に劣後して第3位(27.4%)だった「先進国株式」(MSCIコクサイ指数)は、2019年から3年連続でベストパフォーマーとなった。この結果、2022年12月末までの累積騰落率では、「国内株式」が112.91%(2.12倍)、「先進国株式」が149.77%(2.49倍)、「国内REIT」は69.92%という結果になった。

図表1:過去10年間の資産クラス別リターン(円換算なし)

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  • 出所:ウエルスアドバイザー作成

 2013年から2022年までの10年間は、基本的に低金利時代が続いてリスク資産投資には追い風の期間だったといえる。2022年は米国をはじめ各国の急速な利上げによってリスク資産が大きく崩れる1年間となったが、2021年末までの上昇によって、トータルでのリターンを確保することができた資産が多かった。ただ、その中にあっても、「新興国債券」(MSIS新興国ソブリン・ボンド指数)の累積リターンはマイナス34.39%、「先進国REIT」(FTSE EPRA/NAREIT先進国不動産(除く米国))がマイナス19.43%、「新興国株式」(MSIS新興国株式)がマイナス2.07%など、10年間で目減りしてしまった資産クラスもある。2倍以上に成長した資産があることを知ると、10年でマイナスのリターンになった資産を保有していた投資家は、非常に大きなダメージを感じるのではないだろうか?

 このように「最高のリターン」をめざしてどれかの資産を特定して投資した場合は、思わぬ結果になってしまう場合がある。そこで、たとえば、今回比較した7つの資産について、そのすべてに等金額で投資したとする。その結果、得られる累積リターンは10年間で39.67%だった。今回の結果は、7つの資産のうち3つがマイナスの投資結果となり、ベストパフォーマーは約2.5倍に資産を拡大したというものだった。それと比較して約40%のリターンは、「マイナスになっていたことを考えれば、はるかにまし」と考えられないだろうか。特定の資産に特化するということではなく、「広く多くの資産に分散して投資する」というのが、「最高のリターン」を探すという投資の仕方とは違うアプローチになる。

 もっとも、今回の7つの資産は、2022年には7つとも揃って下落し、7資産に分散投資した結果としての年間リターンもマイナス15.8%と2ケタマイナスになってしまった。1年間で15%を超えるような大きな下落は、ダメージを受ける下落率だといえるだろう。そういう意味では、今回検証のために用意した7つの資産以外に、「国内債券」、あるいは、金(ゴールド)などの「コモディティ(商品)」を加える、また、ロング・ショートやPE(プライベートエクイティ)などの「ヘッジファンド」の手法を取り入れた投資商品を加えるなどということも検討したい。市場や経済の変化に異なる反応をする資産を幅広く保有することによって、資産全体の価格変動を抑えることができる。大きなマイナスリターンを回避することによって長期にわたって投資を継続することができるのではないだろうか。大きな資産を形成するための手段として、投資対象の資産を幅広く保有するということの効果を考えたい。(グラフは、主要な7つのリスク資産の1年トータルリターンの推移)

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