新NISA「コラム」
新NISAで買える投信(4)、「成長投資枠」も「つみたて投資枠」でも使えるファンドの効用
今年1月にスタートした新NISAは、1人当たりの投資収益非課税枠が1800万円、非課税対象期間も無期限ということもあり、これを機に投資をスタートする人も少なくないと考えられる。折しも、日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新し、株式投資についての関心が高まっている。「新NISAを使って何に投資すれば、最も効果的に運用ができるだろうか」と考え中の方も少なくないと考える。そこで、新NISAで購入できる主な投資信託の種類やその特徴について概観してみたい。ここでは投資信託協会や金融庁が発表している商品リストに基づいて紹介する。実際には、個々の金融機関によって取り扱いの有無が生じることにご留意いただきたい。「成長投資枠」で買える商品は、選択肢が幅広く、「つみたて投資枠」にはない魅力的な商品がある。
「つみたて投資枠」は、低コストの株式インデックスファンドのイメージが強い。「全世界株式(オール・カントリー)」をはじめ、「S&P500」や「日経平均株価」、「TOPIX」など国内外の株式インデックスファンドが充実している。むしろ、「つみたて投資枠」については、資産形成の手段として「長期・分散・積立投資」を軸に考えることを提唱し、その際に使う商品として「株式インデックスファンド」を取り上げ、さらに、制度上で運用コスト(信託報酬)に上限を設けたという制度上の「縛り」がある。これと比較すると、「成長投資枠」は商品性の自由度が高い。「毎月分配型を除外」、「デリバティブの使用はヘッジ目的のみ」などの制限はあるものの、多様なニーズに応えることもまた意識した非課税投資枠になっている。「つみたて投資枠」の対象ファンドは、株式への投資が条件になっているが、「成長投資枠」では債券のみに投資するファンドもある。株式の価格変動リスクを避けたいという投資家は「成長投資枠」で債券ファンドを選ぶこともできる。
この多様な商品がラインナップされる「成長投資枠」だが、非課税限度額が1200万円と上限が低く設定されている。新NISAでは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の区分があり、1人で2つの枠を平行して使うこともできるが、「つみたて投資枠」では1人当たりの非課税限度額1800万円をまるまる使うことが可能だが、「成長投資枠」だけでは限度額1800万円を全部使い切ることはできない仕組みだ。ただ、「つみたて投資枠」は、年間の非課税枠が120万であり、積立投資契約で購入する必要がある。これに対して、「成長投資枠」は年間の非課税枠が240万円と大きく、かつ、積立投資などの縛りがないため、一括で240万円を投資することも可能だ。
新NISAは、従来の「つみたてNISA」を引き継いだ「つみたて投資枠」と「一般NISA」を引き継いだ「成長投資枠」という区分があるため、制度全体の使い方にやや自由度を欠いているところがある。非課税限度額が大幅に拡充され、かつ、非課税期間も無期限に延長されたという大きなメリットがあるため、多少の使い勝手の悪さは目をつぶって、制度全体の有効活用を考えたい。
そこで、「成長投資枠」の対象ファンドで、かつ、「つみたて投資枠」での対象でもある投資信託は、投資の自由度が高く、様々な市場変化に柔軟に対応できる商品として注目される。まず、資産形成を目的に新NISAで投資を始める場合、第一の選択肢としては、「つみたて投資枠」の対象ファンドである株式インデックスファンドの積立投資を考えたい。たとえば、「日経平均株価(日経225)」に連動するインデックスファンドであれば、日本の代表的な株式225銘柄に投資することができる。「TOPIX(東証株価指数)」連動のファンドなら、東証に上場する約2150銘柄に分散投資したポートフォリオになる。外国の株式を選んだ場合でも「S&P500」であれば米国の代表的な企業500社、「全世界株式(オール・カントリー)」であれば、新興国の株式も含む2800銘柄以上に分散投資することになる。インデックス(株価指数)に連動するファンドを選ぶことによって、数十から数千銘柄に分散投資する効果が得られる意義は大きい。
今のところ、低コスト、かつ、パフォーマンス(運用成績)の面でも優れた結果を残している米国「S&P500」に連動する「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、「つみたて投資枠」の投資対象で、運用資産残高が最大のファンドになる。しかも、過去3年(年率)トータルリターンは24.03%だ。「成長投資枠」の対象、かつ、「つみたて投資枠」の対象銘柄である254銘柄の中で第3位の成績だ。しかも、信託報酬率(税込み)は0.0935%と圧倒的に低い。運用成績で上回る「日経平均高配当利回り株ファンド」が0.693%、「iFreeNEXT FANG+インデックス」の0.7755%などと比較しても7分の1程度の水準になっている。運用コストが圧倒的に低く、かつ、運用成績でもトップクラスの成績を残している最強のファンドといえる(運用成績はあくまで2024年1月末時点の評価であり、将来的にも最強ということではない)。
このファンドを「つみたて投資枠」で毎月数万円(上限は10万円)の積立投資で投資し、たとえば、市場が大きく下落した場合などは、「成長投資枠」を使ってまとまった金額を追加投資するということもできる。「成長投資枠」では年間240万円まで投資できるので、市場の変動に応じて、何度でも追加投資のチャンスに対応することが可能だ。今現在、日本も米国も株価は、史上最高値という非常に高い水準に来ている。しかも、日本では長らく続いてきたゼロ金利の超金融緩和政策が終焉し、「利上げ」に転換するタイミングを見極める時期にしている。「利上げ」による金融引締めが、日本の株式市場にダメージを与える懸念がある。
反対に米国は、年5%以上の水準まで急速に引き上げた政策金利を「引き下げ」のタイミングを迎えている。金利を引き下げるのは、景気が減速したことを受けた措置だ。好景気で企業業績の成長が株高を支えてきた米国で、景気が鈍化していることは警戒が必要な事態だ。このように、日米ともに上昇を続けてきた株価に変調の兆しがあるところなので、単純な積立投資を継続するだけでなく、大きく市場が崩れた場合などは、株価が下落したところでまとまった追加投資を実施する(ナンピン買い)など、きめ細かな対応が必要なところといえる。NISAの枠を使いながらも、「つみたて投資枠」、かつ、「成長投資枠」の対象ファンドであれば、それぞれの枠にある非課税限度額を上手に活かした柔軟な投資が可能だ。特に、過去3年程度のパフォーマンスに優れたファンドは、これからの日米株価の動向に大きな影響を受ける可能性も強いため、できるだけ柔軟な対応ができた方が良いだろう。新NISAの2つの投資枠を使って投資ができる投資信託を上手に活用することを考えたい。(グラフは、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の両方で投資できるファンドのパフォーマンス)
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