新NISA「コラム」

新NISAつみたて投資枠対象投信研究(2)、海外資産残高トップは「eMAXIS Slim」、パフォーマンスは?

 2024年1月にスタートした「新NISA」によって、投資信託の積み立て投資を始めた人は少なくないだろう。2024年1月以来、投資信託の純資金流出入額は資金流入が継続し、例年に比べて流入額も増加している。まずは、資産運用を始めるということが大事だが、始めた後で次に気になるのは、「自分の投資は間違っていないか?」ということだろう。「もっと収益率の高い投資対象があるかもしれない」とか、「市場環境の変化に応じて柔軟に投資対象を見直していきたい」と考える人もいるだろう。新NISAで投資できる投資信託には、どのような種類があり、どんな違いがあるのか。「つみたて投資枠」の対象ファンドについて、「海外資産」の区分で、どのような投信が対象投信になっているか、全体像を俯瞰した。

 「つみたて投資枠」は、その名前のとおり、積立投資(定時定額投資)で投資信託を購入するコースだ。毎月の積立金額の上限は10万円で、年間120万円まで収益非課税で投資できる。投資対象は、「長期・積立・分散投資に資する商品」として、主要な投資対象を株式として、信託期間は無期限または20年以上、運用コスト(信託報酬等)も低コスト(指定インデックス投資信託の場合は、国内資産では年0.5%以下など)の条件をクリアした商品のみが投資対象になっている。2024年5月15日時点で対象商品数は、「指定インデックス投資信託」で232本、「指定インデックス投資信託以外(アクティブ運用投資信託等)」が49本、ETFが8本の合計289本になっている。

 「つみたて投資枠」の対象投資信託で海外資産の「指定インデックス投資信託」は、新興国を含む全世界株式を対象とした「MSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」連動型が14本、「FTSE Global All Cap Index」が5本。先進国株式を対象とした「MSCI World Index(または、日本を除くMSCIコクサイ・インデックス)」が20本、「FTSE Developed All Cap Index」が2本、「S&P500」が16本、「CRSP U.S. Total Market Index」が3本。新興国株式を対象とした「MSCI Emerging Markets Index」が12本、その他新興国株インデックスが2本。そして、「指定インデックス投資信託以外」が24本、ETFは5本で合計103本になっている。国内株式型の47本と比較して対象商品数が多い。

 その対象投資信託の中で、最も純資産残高が大きいのは「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の4兆6413億円だ。国内最大の公募インデックス投信である。米国を代表する株価指数である「S&P500(配当込み・円換算ベース)」に連動することをめざす。「S&P500」は、時価総額、流動性、業種等を勘案して選ばれたNY証券取引所やNASDAQに上場および登録されている約500銘柄を時価総額で加重平均した指数で、米国株式市場全体の時価総額に対して約80%をカバーし、米国市場全体を概ね代表している株価指数といえる。同インデックス投信の運用コスト(信託報酬)は年0.0935%(税込み)とインデックス投信の平均を大幅に下回る水準になっている。また、3年(年率)トータルリターンは22.04%と、非常に高い運用成績を残していることも大きな特徴だ。

 次に、残高が大きいのは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の3兆4671億円だ。新興国を含む全世界株式を対象としたインデックス「MSCI ACWI(配当込み・円換算ベース)」に連動をめざす。「MSCI ACWI」は、「国内株式」と「先進国株式(MSCIコクサイ・インデックス)」と「新興国株式(MSCI Emerging Markets Index)」に分解できる。同ファンドの2024年4月末基準の月報によれば、「国内株式」が5.5%、「先進国株式」が84.1%、「新興国株式」が10.3%という比率になる。国別には米国が61.7%を占め、組み入れ上位10銘柄も、マイクロソフト、アップル、エヌビディアなど米国企業が9銘柄を占め、台湾セミコンダクターが唯一第8位でトップ10に入っている。米国株式の影響が強い指数だ。また、ここ数年は米国株の値上がりが市場全体をけん引していたため、パフォーマンス的には米国株の比率が6割ということで薄められて3年(年率)リターンは17.98%になっている。ただ、運用コストは年0.0572%(税込み)と国内で最低水準のコストになっている。

 そして、残高の3位は「SBI・V・S&P500インデックスファンド」の1兆6569億円、次いで、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」の1兆5441億円と1兆円超のファンドが続く。そして、第5位が「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」の7548億円など、上位を占めるのはインデックス投信ばかりだ。

 一方、対象投信のパフォーマンスを比較すると、過去3年(年率)トータルリターンでは、トップが「iFreeNEXT FANG+インデックス」の26.65%だ。この投信は、米国のハイテク株を代表する「FANG+インデックス(フェイスブック<メタ・プラットフォームズ>、アマゾン、ネットフリックス、グーグル<アルファベット>、エヌビディア、ブロードコム、マイクロソフト、スノーフレイク、アップル、テスラという10銘柄に均等投資する株価指数)」に連動することをめざすインデックス投信。第2位は、「iFreeNEXT NASDAQ100インデックス」の22.63%。「NASDAQ100」は、NASDAQ市場に上場する時価総額の大きな100銘柄で構成された指数。そして、アクティブ投信である「iTrust インド株式」が22.4%、「フィデリティ・米国優良株・ファンド」が22.12%だ。この後に、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の22.04%が続いている。

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 パフォーマンスをみると、米国株市場全体を表す「S&P500」は優れた運用成績を残しているが、よりハイテク株の比率が高い「NASDAQ100」やハイテク株の代表銘柄で構成された「FANG+インデックス」の方がパフォーマンスが良いという結果だった。そして、「S&P500」よりもインド株投信の方がより高いリターンにつながっている。さらには、国内株式のアクティブ投信である「日経平均高配当利回り株ファンド」は、3年(年率)トータルリターンが32.55%と、海外資産のトップである「iFreeNEXT FANG+インデックス」の26.65%を超える運用成績だったことを忘れてはならない。「コロナ・ショック」の2020年3月以降に、米国ハイテク株が大幅な上昇となって、株式投信のパフォーマンスは「米国株式」が最も高いリターンにつながりやすいという見方が強く、実際に、国内公募投信の中では「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が最大の残高を持つまでに成長しているが、日本株やインド株など、米国株以外により優れた運用成績を残す投信があることを見逃してはならないだろう。

 海外資産に投資する対象投信では、「S&P500」と「全世界株式(オール・カントリー)」に連動するインデックスファンドに人気が集中している。ただ、パフォーマンスをみれば、必ずしも「S&P500」や「全世界株式(オール・カントリー)」に固執されることなく、もう少し広い視点で選ぶようにすれば、パフォーマンスの向上を目指すことが可能ということができそうだ。たとえば、「全世界株式(オール・カントリー)」に「iTrust インド株式」や「日経平均高配当利回り株ファンド」を加えるという選択肢もあるだろう。インデックスベースでは新興国への投資比率は10%に過ぎず、国内株式については5.5%しかない。もう少し、新興国や国内株式への投資比率を高めた方が、より高いリターンにつながるかもしれないなど、今後の世界市場の先行きをイメージしながら、自分自身の運用ポートフォリオを考えるという視点で考察する姿勢が重要だ。(グラフは、つみたて投資枠対象の海外株式ファンドのパフォーマンス)

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