新NISA「ニュース」

8月の株価急落に耐えた投資対象、為替ヘッジありの「小型株」「バリュー株」そして「ゴールド(金)」

 7月末の日銀の利上げと、その後の日銀総裁会見での追加利上げを検討するというタカ派的な発言が引き金となった8月1日からの世界的な株価急落は、日銀のおひざ元である日本の株式市場に最も大きな影響を与えた。一方で、今回の市場波乱では、為替市場での急速な「円高」も同時に起きたため、海外債券でのヘッジ機能も失われ、国内の投資家にとっては、株安と債券安のダブルパンチで、どこにも逃げ場のない厳しい局面を経験させられることになった。特に、今年1月にスタートした新NISAをきっかけに、投資信託を購入した人にとっては、初めての下落場面の経験となり、過去6カ月にわたって積み上がってきた利益が一瞬で失われる恐怖を味わったことだろう。株価の下落が一巡したところで、今回の市場波乱による価格変動の実態を検証しておきたい。

 8月入りを前後しての日米の株価を中心とした価格変動の様子を、「eMAXIS Slim」シリーズの代表的なファンドで振り返ってみた。まず、今年の一番人気になっている「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の基準価額の推移は、2023年12月末時点で2万899円だったものが、基本的に右肩上がりで上昇し、7月11日に2万7282円のピークをつけた。この間の上昇率は30.54%。2023年の1年間のリターン30.42%を半年余りで達成してしまう上昇率だった。

 7月11日は、「オルカン」だけでなく、多くのファンドが今年のピークをつけている。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は昨年末からの上昇率が35.14%、「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均株価)」は同27.17%、「eMAXIS Slim 先進国債券ファンド」は同11.94%、そして、「eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)」は同13.67%と、この時点では、どのような資産クラスに投資していても半年余りで2ケタの投資収益を獲得するという好調な運用収益が得られていた。7月11日の東京市場15時時点のドル円は1ドル=161.69円だった。

 ところが、その後、7月の後半には日米の株価が調整安となった。バイデン政権が中国に対する半導体関連の規制を強化すると発表したため、今年の相場のけん引役であった半導体関連銘柄が弱含み、その後、テスラの電気自動車(EV)の販売が計画通りに進んでいないことが嫌気されて株価が急落。アルファベットもYoutubeの広告収入が予想を下回ったことで株価が下落するなど、2023年以来の株価のけん引役であった「マグニフィセント・セブン」の一角が崩れるような動きになった。そして、生成AI関連の半導体の競争激化が懸念されエヌビディアの株価が急落した直後の7月31日に、日銀が0.25%の利上げを決定し、その後の総裁記者会見で追加利上げの可能性に言及した。

 この日銀の決定を受けて、日経平均株価は8月1日から3日間にわたって急落した。1日に975円安、2日は2216円安、そして、週明け月曜日の5日には4451円安という史上最大値幅での急落となった。この8月1日から5日にかけては、米国も欧州も中国も3営業日連続安となり、日本発の株価急落が世界に伝播した。この世界的な株安について、7月11日のピークを起点としてファンドの下落率を調べると、「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均株価)」がマイナス25.48%と一番ダメージが大きかった。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」はマイナス16.84%、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」はマイナス17.44%だった。最も下落率が大きかった「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均株価)」は昨年末の水準からもマイナス5.24%となり、半年余りにわたって27%のプラスになっていた収益が一瞬でマイナスに転じてしまった。
news_240813.jpeg

 また、8月5日には1ドル=142.61円まで急速に円高が進み、この結果として海外債券で運用しているファンドも急落した。「eMAXIS Slim 先進国債券インデックス」は7月11日のピークからマイナス7.58%、「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」は同マイナス9.75%と沈んだ。「eMAXIS Slim 国内株式(日経平均株価)」以外の「オルカン」、「S&P500」、「海外債券」、「8資産均等」は前年末比でマイナスになるようなことはなかったが、ピークの収益に比べると、大幅に収益を目減りさせた。海外債券は急速な円高のためにダメージを受けたが、国内債券はこの急落のさなかでも上昇をした。「eMAXIS Slim 国内債券インデックス」は7月末の基準価額9354円が、8月5日には9569円に上昇した。

 このような全面安の中、金(ゴールド)に投資するファンドもまた下落している。「ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)」は、ピークがその他の資産の7月11日からずれて7月18日であり、昨年末からの上昇率は31.57%。8月6日のボトムまでのピークからの下落率はマイナス11.35%だった。「オルカン」や「S&P500」に投資するよりも下落率はやや軽微になった。

 今回の市場波乱によって、国内株式と海外株式、そして、海外債券は連動性が非常に強いことが再確認できた。このため、これらの資産間での分散投資効果は低い。これは、国内外の不動産(REIT)を加えた「8資産」に分散しても分散効果は低いという結果になった。今回の下げで、最も大きな影響を受けた「国内株式」の価格変動リスクを低減するために、分散投資する投資先として最も効果的だったのは「国内債券」だった。これに次いで、「金(ゴールド)」も「海外株式」や「海外債券」などと比較すると分散効果があったということになる。ただ、「国内債券」に分散効果があったからと言って、「eMAXIS Slim 国内債券インデックス」は過去5年間の年率トータルリターンガマイナス2.02%という成績だった。持っているだけでマイナスの投資成果になる資産をヘッジ目的とは言え保有し続けられるだろうか? 前向きな検討は正直難しいだろう。

 今回、世界の株価は急落したとはいえ、いずれは、再び史上最高値を更新し、株価は中長期的には上昇していくことになる。今回、さまざまな資産クラスのファンドの値動きを見たが、今後、株価が回復していくにあたって、この急落局面でダメージが小さかった方が、より早く資産価値を回復し、収益機会にも恵まれることになる。そのように考えると、この7月の1カ月で値上がりした銘柄群は、国内株式やS&P500などの海外株式と一緒に併せ持つ対象として検討の価値があるということもできる。ベア型ファンドを除くと、「マニュライフ・米国銀行株式ファンド」、「GSビッグデータ・ストラテジー(米国小型株)A(為替ヘッジあり)」、「BR・米国小型株式ビッグデータ戦略ファンド(為替ヘッジあり)」、「ドナルド・スミス米国ディープバリュー株式A(為替ヘッジあり)」などの銘柄が7月末時点で過去1カ月間のリターンが高かった銘柄として並んでいる。「小型株」、「バリュー株」などがキーワードになっているようだ。これらが常に効果的かどうかはわからない。その時々の体験を通じて、市場の変化を検証しながら株価波乱に備えた投資行動について理解を深めていきたい。(グラフは、主要な資産クラスのファンドの過去1年間の値動き)

最新記事

NISA応援宣言トップページへ>>

ページトップに戻る