新NISA「ニュース」
新NISAは投資のきっかけに大いに貢献しているが、今後の拡大には知識の普及と賃上げも必要
フィデリティ投信が毎年実施している「フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート」で新NISAの利用実態を多面的に分析したところ、新NISAは投資開始の重要なきっかけになっているものの、一段の普及には金融教育の拡充、また、賃上げが重要なポイントになることがわかった。調査結果を分析したフィデリティ・インスティテュートの主席研究員の浦田春河氏(写真)は、「若い世代は老後資金の財源として自助努力制度への期待が高く、非正規雇用者を含めた勤労者に対する教育機会の拡大は今後の課題」と語っている。アンケートは2010年から実施し、今回で11回目。今回から新たに労働人口の4割弱を占める非正規雇用者も調査の対象に加え、新NISAによって新たなフェーズに入ったといえる個人の金融行動の実態を調べている。
投資家比率は、全体で48%。前回調査と比較ができる正規雇用者の投資家比率は昨年の51%から54%に上昇した。非正規雇用者の投資家比率は33%だった。この投資家の中で、「投資を始めた」という回答は、1万人のうち928人で約1割に相当する。鳴り物入りで導入された「新NISA」の効果として約1割の投資開始というのは、やや物足りない感じは否めない。ただ、投資を始めた人に、始めた理由を聞く(複数回答)と、「新NISAの登場」が63%で圧倒的に多く、新NISAが投資のきっかけに大いに貢献していることはわかる。これに続くのは「インフレの進行」、「投資知識の増加」、「世の中の雰囲気」などが挙げられた。
そして、新NISAをきっかけに投資を始めた人(586人)の内訳をみると、正規雇用者ではZ世代(20~27歳)が67%と最も多く、次いで中堅層(37~52歳)の65%だった。非正規雇用者では年代的には中堅層が69%で最も多かった。年収は、男性は「500~700万円未満」が31%と最も多く、女性は「300~500万未満」が28%と最も多い比率だった。年収は男女ともに300万円以上の層は幅広く分布していて、特に年収の違いによって投資を開始することに行動の違いはないようだ。特に女性は年収300万円未満の人が15%(男性は8%)も投資を始めており、年収の高い低いにかかわらず投資への関心は強いことがうかがえた。
一方、一般NISAの利用者(1520人)に新NISAで投資額を増やす意向があるかを調べたところ、多くの人が従前の投資額を維持する一方で、650人(43%)が新NISAで投資額を増やす意向にあることがわかった。中でも従来NISAで上限額120万円を投資している人の約4割(42%)が新NISAで上限の360万円まで投資を計画していることが目立った。
また、新NISAで投資額を増やす人の内訳は、男性の方が増やす人の割合は高い(54%、女性は45%)が、男女ともに30代が最も増やす人の比率が高くなっている。そして、投資額を増やす人は「賃金が上がった」人が56%で、賃金が下がった人(45%)よりも明らかに前向きで、金融知識との関係でも「もともと詳しかったがさらに詳しくなった」人は67%で、「あまり詳しくなかったし、今も詳しくない」の36%よりもより積極的だった。賃金が上がり、金融知識が増えるほどに投資に積極的になる傾向がある。
新NISAに投資するお金の財源については、7割超が「給与、ボーナスなど、これから稼ぐお金」という回答だったが、「預貯金口座で貯蓄しているお金」を新NISAにシフトする人も4割弱いた。高齢層や高所得層では預貯金口座から新NISAにシフトするという回答が43%となり、「貯蓄から投資へ」の動きが進んでいることがわかった。
なお、新NISA口座を開設した金融機関のタイプでは「ネット証券・銀行」が75%と圧倒し、「対面証券」が8%、「大手銀行・信託」が7%、「地方銀行」が3%という比率だった。年収別では「2000万円以上」では「ネット証券・銀行」は60%に低下し、「対面証券」が16%、「大手銀行・信託銀行」が13%と増える。金融機関を選択した理由は、「旧NISA口座を保有」というのが5割でトップだったが、次いで「売買手数料が安い」が入った。浦田氏は、「対面証券や銀行の相談機能を使いたいというニーズは着実にあると考えられるが、新NISAの口座は1つの金融機関にしか開設できないという規制がある限り、品揃えが多く手数料が低いネット証券・銀行が選ばれる傾向は続くと考えられる。マイナンバーが普及している現状では複数の金融機関に口座を認めても良いと考える。そうすれば、対面証券や銀行の利用は増えるだろう」と語っていた。
一方、金融教育については、特に非正規雇用者について職場での教育機会が限られていることは課題と指摘していた。また、浦田氏はZ世代に向けた金融教育について、「結婚、子育て、住宅取得など、従来型の直線的なライフプランで教育しようという考えはZ世代には受け入れてもらえない。現在のマネー教育は『具体的な話がなく、自分にあてはめにくい』点に不満がある。日本では、具体的な投資先について話をすることに強い抵抗があるが、資産運用立国をめざすという投資の普及を考えるのであれば、投資アドバイスにまで踏み込んだ教育のあり方について議論していく必要があるのではないか」と語っていた。
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